【横浜地判平成19年3月30日】
「環境ホルモン濫訴事件」と呼ばれる事件をご紹介します。
京大教授が原告となり、元東大教授が被告となった事件です。
平成16年12月に環境省主催のシンポジウムが開かれました。
そのシンポジウムで、京大のX教授は、座長兼パネリストとして参加していました。
これを見たY教授は、自分のホームページに次のような記事を掲載しました。
※Y教授の前職は東大教授で、掲載当時は横浜国立大学の教授でした。
「最初の情報発信に気をつけよう」
① パネリストの一人として参加していた、京都大学教授のXさんが、新聞記事のスライドを見せて、『次はナノです』と言ったのには驚いた。要するに環境ホルモンは終わった、今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である。② スライドに出た記事が、何新聞の記事かは分からなかったし、見出しも、よく分からなかった(私の後ろにスクリーンがあり)ナノ粒子の有害性のような記事だったが、詳しくは分からなかった(読みとれなかった)。その論文だと思ったのだが、帰宅して新聞記事検索をかけると、New York Timesなどには出てくるが、日本の一般紙には出ていない。したがって、別の論文の紹介のようである。その内容がどういうものかは分からないのだが、いずれにしろ、こういう研究結果を伝える時に、この原論文の問題点に触れてほしい。
学者が、他の人に伝える時、新聞の記事そのままではおかしい。新聞にこう書いてあるが、自分はこう思うとか、新聞の通りだと思うとか、そういう情報発信こそすべきではないか。情報の第一報は大きな影響を与える、専門家や学者は、その際、新聞やTVの記事ではなく、自分で読んで伝えてほしい。でなければ、専門家でない。
これに怒ったX教授は、Y教授に対して、330万円の支払いを求める訴訟を起こしました。
これに対し、Y教授も、「X教授の訴訟は不当訴訟である」と訴え返しました(反訴)。
さて、この訴訟は、どうなったのでしょうか?
裁判所はまず、ある記事が名誉毀損となるかどうかについて、「その記載の文言だけではなく、表現方法並びに記事全体の構成、内容、趣旨及び目的等を総合的に検討した上で、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべき」としました。
そして、「記載②は、X教授について否定的な印象を与えるものであることは否めないものの、これによるX教授の社会的評価に対する影響は極めて限られたものである」として、Y教授の記事は、X教授の名誉を毀損するものではない、としました。
つまり、X教授からY教授に対する請求は認められませんでした。
また、Y教授からX教授に対する訴えも棄却されています。
この事件は、当時大変な盛り上がりを見せ、現在でもその資料が「環境ホルモン濫訴事件」として、ネット上で公開されています。
http://www.i-foe.org/kankyo-hormone/index.html
今回のような内容、体裁の記事であれば、名誉毀損とはならないようですね。