ここまで、
契約に基づく請求のときには相手に弁護士費用を請求できない、
不法行為による請求のときは、10%を弁護士費用として請求できる、
と説明してきました。
弁護士費用に関連して、平成24年に新たな裁判例が登場しました。
大げさかも知れませんが、この裁判例が主流となれば、裁判を起こすハードルが下がり、被害者の救済へとつながることになるかも知れません。
【東京地判 平成24年1月31日】
Yが、2ちゃんねるのXの悪口を書き込みました。
Xは、Yに対し、名誉毀損を理由に損害賠償を請求しました。
ここまでは、これまでに紹介してきた裁判例と変わりがありません。
この裁判で問題となったのは、「調査費用」です。
ネット掲示板に悪口が書き込まれた場合、裁判を起こすには、まず「その書込をしたのは誰か?」を特定しなければなりません。
特定のための手続は、一般の方々にとって慣れないものですので、弁護士に依頼するのが普通です。
今回の事件では、書き込んだ者を特定するのに、63万円かかっていました。
そこでXは、Yに対して、名誉毀損による慰謝料400万円、その1割にあたる弁護士費用40万円に加えて、調査費用として63万円を請求したのです。
このような請求に対して裁判所は、慰謝料100万円、弁護士費用10万円の他に、調査費用として63万円を認めたのです!
小笠原六川国際総合法律事務所の神田知宏弁護士のブログによりますと、この事件の控訴審(東京高裁平成24年6月28日判決)でも、調査費用の支払が認められているようです。
http://kandatomohiro.typepad.jp/blog/2012/12/20121230-1.html
これまでネット掲示板の書き込みによる名誉毀損事件の場合、慰謝料は、せいぜい100万円前後でした。
そして100万円の判決を得ても、相手を特定するためだけで数十万円の費用、さらに名誉毀損の裁判を起こすに数十万円の費用がかかってしまうため、費用倒れになってしまう場合がほとんどでした。
ところが今回のような裁判例が主流となっていけば、慰謝料に調査費用を上乗せして請求できることになりますので、ネット掲示板で誹謗中傷を受けた人が救済される可能性が広がることになります。
ただし、調査費用を否定した裁判例もあるようですし、そもそも書き込んだ相手を特定できない場合もままありますので、必ず調査費用を相手に請求できるわけではありませんのでご注意ください。
※隼綜合事務所では、インターネット掲示板での名誉毀損事件についてのご相談を常時受け付けております。