個人情報保護法に違反する?

インターネット上には、NTTの電話帳に掲載された氏名や電話番号を本人の了解なく掲載しているウェブサイトが存在します(以下「電話帳転載サイト」といいます)。電話帳に掲載されているとはいえ、本人の了解なく、個人情報をネット上に掲載するのに個人情報保護法上問題がないのでしょうか。

個人情報保護法は、「個人情報取扱事業者」に該当する事業者を対象として、個人情報の取扱いに関し、様々なルールを定めている法律です。

この法律が定めるルールには、個人情報の利用目的の通知、保有する個人情報の開示、訂正など様々ありますが、電話帳転載サイトに関係するルールとしては、個人の同意なくネット上に個人情報を掲載することは個人情報保護法23条違反になりますし、ネット上に掲載されている個人情報を削除してもらいたいという場合には、サイト運営者に対して、個人情報保護法27条2項に基づき、個人情報の第三者への提供の停止を求める手続が規定されています。

もっとも、個人情報保護法は、「個人情報取扱事業者」に該当する事業者を規制する法律ですので、前提として、そのサイトの運営者が「個人情報取扱事業者」に該当するかどうかが問題になります。
「個人情報取扱事業者」の定義については、個人情報保護法が「個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。」と定めていますが、いくつか例外を定めており、その一つに「その取り扱う個人情報の量及び利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定める者」というものがあります。この「政令で定める者」について、個人情報保護法施行令は、以下のように定めています。

第二条  法第二条第三項第五号 の政令で定める者は、その事業の用に供する個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数(当該個人情報データベース等の全部又は一部が他人の作成に係る個人情報データベース等であって、次の各号のいずれかに該当するものを編集し、又は加工することなくその事業の用に供するときは、当該個人情報データベース等の全部又は一部を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数を除く。)の合計が過去六月以内のいずれの日においても五千を超えない者とする。
一  個人情報として次に掲げるもののみが含まれるもの
イ 氏名
ロ 住所又は居所(地図上又は電子計算機の映像面上において住所又は居所の所在の場所を示す表示を含む。)
ハ 電話番号
二  不特定かつ多数の者に販売することを目的として発行され、かつ、不特定かつ多数の者により随時に購入することができるもの又はできたもの

政令の条文は読みにくいものが多いですが、これは比較的読みやすい部類です。括弧書きの部分をとばして読めば、保有する個人情報が5000人分以下であれば個人情報取扱事業者には該当しないという単純な規定ですが、電話帳転載サイトの問題を考えるにあたっては、括弧書きの部分が重要で、整理すると、次の①から③の全てに該当する場合には、個人情報の保有数が5000人以下かどうかの判定で、数に含めないということをいっています。

① 全部又は一部が他人の作成に係る個人情報データベース等であること
② 氏名、住所、電話番号のみが含まれるもの、あるいは、不特定多数の者に販売されることを目的として発行され、随時購入できるものであること
③ これを編集、加工することなくその事業の用に供すること

電話帳転載サイトは、①NTTが作成した個人情報データベース等によるもので、②氏名住所電話番号のみが掲載されていますので、①と②には該当します。
③については、これをwebページに編集・加工していますから、該当しないとも考えられます。
しかしながら、経産省などのガイドラインでは、電話帳やカーナビなどの取扱に関し、「その個人情報データベース等を事業の用に供するに当たり、新たに個人情報を加え、識別される特定の個人を増やしたり、他の個人情報を付加したりして、個人情報データベース等そのものを変更するようなことをしていない」場合には個人情報取扱事業者に当たらないとの記載があります。これは、読み方によっては、ハローページなどの電話帳データの内容を変更せず、そのまま転載する場合には、CD-ROMにして販売しても、ネット上に掲載しても良いかのような記載になっています。
このように、電話帳データの転載が、国の定めるガイドラインでも認められているかのように読めるため、電話帳転載サイトや、これをCDーROMやダウンロード可能なファイルにして販売する業者が世の中には多数存在しています。

ところで、仮に電話帳転載サイトの運営者が個人情報取扱事業者に当たるとして、その行為が犯罪になるのでしょうか。個人情報保護法には、罰則規定があることはありますが、個人情報を無断でネット上に公開すること自体を処罰する規定はありません。
では、個人情報保護法の定める犯罪とは、何なのでしょうか。
個人情報保護法の罰則規定である56条は、個人情報取扱事業者が、第34条2項又は3項の規定による主務大臣の命令に違反したときは、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処すると定めています。この主務大臣の命令は、個人の同意を得ずに個人情報を第三者に提供する場合にも、是正措置の命令をすることができますので、主務大臣が電話帳転載サイトの運営者にこの命令を発し、それに違反したときには、上記の犯罪の構成要件に該当することになるのです。
要するに、氏名等をネットに載せること自体は犯罪ではないけれども、それを主務大臣から中止するよう命令されても従わない場合には、いわば命令違反罪という形で犯罪にはなり得ます。
しかしながら、国がこの命令を発することに慎重になってしまうと、そもそも主務大臣の命令が存在しない以上、命令違反も存在せず、犯罪になりえませんので、告訴されても被害届を出されても警察としても何ともしようがないということになります。

当事務所では、この問題について、積極的に相談をお受けしております。
ホームページのお問い合せフォームからでも結構ですので、ご連絡下さい。


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隼綜合法律事務所の所長を務めております、重長です。 どのような事件でも、早期に事実関係や問題点を把握し、正確な見通しと解決策を立てることを大切にしています。 予防策を講じ、紛争を未然に防ぐことが何より重要であると日々実感しています。どんなことでもお気軽にご相談下さい。

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